英国自動車が板挟み EU域内優先と中国EV拡大
英国はEUの欧州製要件と中国EV投資拡大の間で苦慮する。関税圧力と市場の実態を整理する。
英国自動車産業が欧州と中国の間で難しい選択を迫られている。欧州連合が公共調達で域内生産を優先する制度を整える一方、中国ブランドが英国新車市場で存在感を高めているからだ。英国政府は欧州市場への輸出維持と中国からの投資誘致の両立を探っている。
虎嗅網 の 汽車商業評論 の報道では、この対立の背景にEUの産業政策と英国の通商政策のずれがあると伝えている。英国のアンディ・バーナム首相は2026年9月21日、国連総会に向かう途上、英国はEUの信頼できる相手でありたいとの考えを示した。
「私たちはあなた方の敵ではない。」
同発言の4日後、ロイターはフィナンシャル・タイムズの報道を引用し、EU側が英国に中国車への輸入関税引き上げを求めていると伝えた。英国の主要輸出品が欧州製要件の制限を受けないようにするため、EUの貿易政策に歩調を合わせるよう促したという内容だ。
EU産業加速器法案の中身と狙い
論争の中心にあるのは、EUが推進する産業加速器法案だ。正式名称をIndustrial Accelerator Act、略称をIAAという。自動車や鉄鋼、電池などの分野で公共調達や公的支援に欧州製と低炭素の要件を設け、域内製品への需要を高める狙いがある。
EUの公共調達は年間2兆ユーロを超え、域内経済全体の約14%を占める。IAAはその一部を活用し、域内生産の拡大と域外供給源への依存低減を図る仕組みだ。英国は自国製品が一部の支援措置から締め出される事態を懸念している。
バーナム首相は9月22日、ニューヨークで欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長と会談した。英国政府の発表では、年内の英欧首脳会議や世界市場での不公正競争と生産過剰への共同対応を協議したとされた。欧州製問題に関する具体的な合意内容は明らかにされなかった。
バーナム首相は英国の参加要求が加盟国から幅広い支持を得ていると述べた。一方、フランスの産業担当大臣は、英国はEUを離脱した以上、加盟国と同一の権利を期待できないとの立場を示した。英国の立場とEU側の原則論は平行線をたどっている。
中国ブランドが英国市場で急拡大
英国市場での中国ブランドの浸透はすでに顕著だ。中国ブランドは英国新車市場の15%以上を占めている。英国自動車メディアの報道では、2026年1月から8月にSAIC傘下のMGを含む中国ブランドが英国で約22万3000台の新車を登録した。BYDやCheryの海外向け副ブランドJaecooなどが販売を伸ばしている。
販売網の拡大速度も速い。英国の自動車取引基盤Autotraderの集計では、中国ブランド車を扱う英国の販売拠点は2024年5月の95カ所から2026年5月には440カ所に増えた。2年間で約4.6倍の規模に達した計算だ。
BYDは2023年3月に英国で乗用車販売を開始し、2026年7月までに累計新車登録台数が10万台を突破した。車種は当初の1車種から10車種に拡大し、純電気自動車とプラグインハイブリッド車を網羅する。小売網も143拠点に広がった。
MGの経緯は特殊だ。英国生まれの同ブランドは2005年にNanjing Automobileに買収され、2007年にSAICとの統合でSAIC傘下に入った。現在は中国自動車集団傘下のブランドとして英国市場で再拡大している。発表資料では2026年1月から8月のMGの英国新車登録台数は6万台を超え、前年同期比19.8%増となった。英国自動車製造販売協会の同時期の車種別登録順位ではMG HSが6位、Jaecoo 7が3位に入った。
英国現地生産を巡る提携交渉の現状
Cheryは販売以外の領域にも事業を広げている。同社は2026年8月、ベッドフォードシャーのUTACミルブルックに研究開発拠点を設立すると発表した。同拠点は自動車試験・認証機関UTACが英国で運営する車両試験・開発施設で、試験路や電池などの試験設備を備える。
Cheryは晩秋に同拠点を開設する予定で、当初は英国の運転環境に適応した車台と運転支援機構に重点を置く。その後、自動運転と人工知能へ対象を広げる計画だとされる。輸入だけでなく開発機能の現地化を進める動きと受け止められている。
生産提携も進んでいる。Cheryは6月に日産と非拘束合意を結び、日産サンダーランド工場を活用して英国市場向けにChery乗用車を生産する可能性を探っている。9月中旬時点では評価段階にあり、具体的な車種や生産規模は未定だ。実現すればCheryは既存工場を活用して現地生産を行い、日産は稼働率向上を見込める。
Geely系の資産も英国に根付いている。Geelyホールディングスグループ傘下のLEVCはコヴェントリー近郊でタクシーを生産し、Lotusはノーフォークに生産拠点を持つ。集団はコヴェントリーに意匠と研究開発機能も有する。LEVCは2024年、2014年以降のGeelyによる累計投資が10億ポンドを超えたと明らかにした。
Geely AutoもGeelyブランドで英国市場開拓を始めた。初車種は2025年10月に英国へ投入され、2026年3月には月間登録台数が初めて1000台を超えた。同社は4月に約80社の販売店と契約したと発表し、年末までに販売修理拠点を100カ所に増やす計画だ。
LeapmotorはStellantis集団を通じて英国に参入した。Stellantisはフィアット・クライスラーとPSA集団が2021年に合併して生まれた多国籍自動車製造業者で、Leapmotorの約21%株式を保有する。双方はLeapmotor Internationalを設立し、Stellantisが51%、Leapmotorが49%を出資し、中華圏以外でのLeapmotor製品の販売と生産事業を担う。同合弁会社を通じてLeapmotorはStellantisの海外販路と運営資源を活用できる。Leapmotor英国の発表資料では、2026年上半期の英国新車登録台数は6770台に達し、2025年3月の英国参入以来の累計登録台数は1万1000台を超えた。
対中関税引き上げ迫るEUの圧力
英国製が直面する欧州側の壁は輸出依存の高さにある。離脱後も英欧の自動車供給網は緊密に結び付き、双方の自動車貿易は年間約800億ユーロに上る。英国の自動車生産台数の大半は輸出向けで、EUは最大の輸出市場だ。英国自動車製造販売協会は9月22日、Oxford Economicsに委託した研究結果を発表した。
EU当局者は、英国が対中関税を引き上げてEUの貿易政策に近づけば、主要輸出品が欧州製制限を受ける事態の回避に役立つと明言した。英国は現状10%の最恵国関税のみで、EUのような反補助金関税を上乗せしていない。EUは中国車が英国経由で関税を回避する事態を警戒している。
EUの懸念は迂回輸出だけではない。英国で中国車が現地生産扱いとなり、部品や完成車がEU市場へ流入する経路も視野に入っている。IAAが公的調達や補助金で域内生産を優遇すれば、原産地や供給網の扱いが英国輸出の競争条件を左右する。英国にとって関税政策は通商問題であると同時に生産立地の条件でもある。
英政府と日産の苦しい両立模索策
英国政府は損得を衡量し慎重な姿勢を示している。商務大臣は保護措置が相互報復を招く恐れがあると強調し、1980年代に日本企業を誘致した手法にならって中国EV投資を呼び込みたい考えを示した。雇用と供給網の維持には海外投資が欠かせないとの認識だ。
日産の動きは内的矛盾を浮き彫りにしている。同社はサンダーランド工場の保護のため増税を求めながら、Cheryとの生産受託交渉も進めている。工場稼働率の維持には外部案件が有効だが、国内産業保護の主張とは摩擦を生む。英国工場の存続と中国企業の活用が同一工場で交差している。
英国の対中自動車政策は輸入業者だけでなく工場や部品供給業者、欧州自動車集団自体の利益にも関わる。完成車輸入で販売を伸ばす企業、研究開発に投資する企業、すでに生産資産を持つ企業、地元企業と生産提携を協議する企業が併存する。関税引き上げは消費者価格や投資判断に波及し、据え置きはEUとの摩擦を残す。英国政府は中国投資の誘致と欧州市場への接続維持の両立を模索している。
編集部の見解
短期的影響について見る。向こう3か月から6か月では、IAAの適用範囲と英国の扱いを巡る協議が通商交渉の焦点になると見る。英国が対中関税を見直せば、輸入車価格と販売網計画に直接影響が出る。各社は原産地規則と調達要件の確認を急ぐと見る。サンダーランド工場を巡るCheryと日産の協議も、稼働率と雇用への効果で注目されると見る。 長期的視点では、1年から3年の単位で生産立地と供給網の再編が進む可能性があると見る。研究開発拠点の現地化が進めば、車台調整や運転支援の開発体制が英国に蓄積されると評価する。一方、欧州製要件が厳格化すれば、電池や部品の域内調達が競争条件になると見る。英国工場の位置付けは輸出市場への接続次第で変わると見る。 編集部からの問いとして、関税と投資誘致の両立は可能であるかが問われている。保護で国内工場を守る策と、外資を迎えて稼働を高める策は衝突しうる。消費者の選択肢と価格、雇用の維持、供給網の自律性のどれを優先するのかが問われている。原産地の扱いと技術移転の範囲についても検証が必要であると考える。
参考
- 「 英国汽车的中国难题 」, by 汽车商业评论 — 虎嗅网, 2026-09-25T23:20:45.000Z (ARR)
- 元記事URL: https://www.huxiu.com/article/4893991.html?f=rss
よくある質問
- 英国とEUの対立点は何か
- EUの産業加速器法案が公共調達で域内生産を優遇する点が対立軸だ。英国は自国製自動車が支援対象から除外される事態を懸念する。EUは英国に対中関税の引き上げと貿易政策の接近を求めている。
- 中国ブランドは英国でどれほど拡大しているのか
- 中国ブランドは英国新車市場の15%以上を占める。2026年1月から8月の登録は約22万3000台とされる。販売拠点は2024年5月の95カ所から2026年5月に440カ所へ増えた。
- Cheryと日産の提携内容は何か
- Cheryは6月に日産と非拘束合意を結び、サンダーランド工場でのChery乗用車生産の可能性を探っている。9月中旬時点では評価段階で車種や規模は未定だ。実現すれば現地生産と稼働率向上の双方に効果が見込まれる。
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