HBFが拓くGPUメモリのTB時代、NAND積層でHBM超えへ
SandiskとSK Hynixが開発するHigh-Bandwidth Flash(HBF)はNANDフラッシュを16層積層し、512GB容量と1.6TB/s帯域を実現。HBMの代替として期待される一方、書き込み耐久性とレイテンシという根本的な課題を抱える。
GPUのメモリ容量が、従来のHBM(高帯域メモリ)では数GBが限界だったのに対し、ストレージ技術を応用した新方式でTB級に引き上げられる可能性が出てきた。米Sandiskと韓国SK Hynixが開発する**High-Bandwidth Flash(HBF)**は、NANDフラッシュをHBMと同様の3次元積層技術でパッケージ化し、SSD並みの大容量とHBM並みの帯域幅を両立させる。The RegisterのTobias Mannの報道によれば、Sandiskの第1世代HBFは読み取り帯域1.6TB/s、容量512GBを達成するという。しかし、NAND本来の書き込み耐久性とアクセスレイテンシの壁は依然として大きく、HBMの完全な置き換えではなく、用途を限定した採用が現実的と見られている。
背景:HBMの容量限界
現在のAIアクセラレータ市場では、HBMがGPUや専用チップに直接実装される標準技術となっている。HBM3eは1スタックあたり最大24GB、12層積層で2.5TB/sの帯域を提供。2026年に量産が本格化するHBM4では、16層積層でスタック容量64GB、帯域2.5TB/s以上に達する。しかし、クラウド事業者が運用する大規模言語モデルは数千億パラメータに及び、単一GPUに収まらないため、複数GPU間でのモデル並列化やテンソル並列化が不可欠だ。HBMの容量は数GBが上限で、これを超えるにはGPU間接続の帯域やレイテンシがボトルネックになる。
HBFの技術的特徴
HBFはHBMと極めて類似したパッケージアーキテクチャを採用する。Sandiskの第1世代HBFは16層のNANDフラッシュを積層し、読み取り帯域1.6TB/sを実現。これはHBM3e(約1.2TB/s)を上回るが、HBM4(2.5TB/s)には及ばない。しかし容量面では、1モジュールあたり最大512GBと、HBM4の36GB(16層)と比べて14倍以上の容量を提供する。
Sandiskは将来世代で帯域を2TB/s、さらに3.2TB/sに引き上げる計画を明らかにしている。HBFモジュールはHBMと同じパッケージ寸法に準拠するため、TSMCのCoWoSやIntelのEMIB/Foverosといった先進パッケージ技術を用いてGPUダイに直接実装できる。既存のGPU/アクセラレータ設計を大きく変更せずに採用可能な点は、普及に向けた大きな利点となる。
電力効率とコスト優位性
SandiskはHBFの消費電力と価格がHBMと同等かそれ以下になる見込みだと主張する。ビット単価ではNANDフラッシュがDRAMより圧倒的に低いため、同じ予算で格段に大きな容量を確保できる。特に推論用途のように書き込み頻度が低く、読み取り主体のワークロードでは、コストパフォーマンスの面でHBFがHBMを凌駕する可能性がある。
根本的な課題:NANDの弱点
しかし、The Registerの記事が指摘するように、HBFがHBMを完全に代替できるわけではない。最大の障壁はNANDフラッシュの書き込み耐久性とアクセスレイテンシだ。DRAMのアクセスレイテンシは数十ナノ秒であるのに対し、NANDフラッシュは数十マイクロ秒と約1,000倍遅い。また、NANDはセルあたりの書き換え可能回数に上限があり、特にQLCやPLCなど多値化が進んだNANDでは耐久性が数千〜数万回に制限される。
GPUが実行するAIモデルのトレーニングでは、バックプロパゲーションによる頻繁な重み更新が発生する。HBFをトレーニングに用いると、書き込みスループット不足で計算ユニットが待たされ、さらにNANDの寿命を大幅に縮める。Sandisk自身もHBFの主用途として推論向けを想定しているとみられる。
加えて、HBMの帯域は読み取りと書き込みの両方向で同等に高速だが、HBFは読み取りに最適化されており、書き込み性能ははるかに低い。公開されているSandiskの仕様でも読み取り帯域のみが示されており、書き込み帯域やレイテンシの詳細は明らかにされていない。
現実的なユースケース
HBFは、推論専用アクセラレータや、モデルの重みを静的に保持するメモリサーバー、あるいは大規模な検索拡張生成(RAG)システム向けのキャッシュ層など、書き込みが稀で読み取りが主体のワークロードに適している。また、トレーニング中のチェックポイント保存用の高速ストレージとしても活用できる。
現在、SandiskとSK HynixはHBFの標準化と量産技術の確立を進めており、2027年以降の製品投入を目指しているとみられる。HBMが抱える容量の壁を打破する可能性を秘める一方、NANDの物理的制約をどの程度システムレベルで緩和できるかが、実用化の成否を分ける。
編集部の見解
HBFは、HBMの容量不足というAI業界の深刻な問題に対して、ストレージ技術の知見を応用した現実的な解を示した点で高く評価できる。短期的には、推論特化型のGPUやAIアクセラレータにおいて、HBF搭載製品が従来比で大幅なコスト削減とモデルサイズ拡大をもたらす可能性がある。特に、超大規模モデルを単一GPUに収められるようになれば、推論サーバーの構成が単純化され、クラウド事業者の設備投資効率が向上する。 長期的視点では、HBFがHBMの代替ではなく補完技術として位置づけられるのか、それともNANDの改良(例えば、強誘電体NANDやMRAM系の不揮発性メモリ)により書き込み耐久性が向上し、トレーニング用途にも展開されるのかが注目される。また、HBFの採用が進めば、GPUのメモリ容量が数TBに達する時代が到来し、ソフトウェア側のメモリ管理戦略も大きく変わるだろう。 ただし、HBFが本当に製品として成立するかは、書き込み性能と耐久性の具体的な数値が公開されて初めて判断できる。
参考
- 「GPUs could explode to multiple TB with new storage-inspired memory tech」, by Tobias Mann — The Register, 2026-07-30T18:33:00.000Z (ARR)
- 元記事URL: https://www.theregister.com/storage/2026/07/30/gpus-could-explode-to-multiple-tb-with-new-storage-inspired-memory-tech/5281363
よくある質問
- HBFはHBMと互換性があるのか
- パッケージ寸法や接続インターフェースがHBMと類似しているため、TSMCのCoWoSやIntelのEMIB/Foverosといった既存の先進パッケージ技術でGPUダイに実装可能。ただし、メモリコントローラやPHYの設計は異なるため、GPU側の対応が必要となる。
- HBFはトレーニングに使えるのか
- 現状のNANDフラッシュの書き込み耐久性とレイテンシでは、頻繁な重み更新を伴うトレーニングには不向き。読み取り主体の推論や、モデル重みの静的な格納用途が主な標的となる。将来のNAND技術の進化次第ではトレーニング用途も検討される可能性がある。
- HBFの価格帯はどの程度か
- SandiskはHBMと同等かそれ以下の価格を目標としている。NANDはDRAMよりビット単価が低いため、大容量化した際のコスト優位性は明確。ただし、積層数や歩留まり、テストコストなどにより、実際の製品価格はHBMを下回るか同等になる見込み。 ## 参考 - [GPUs could explode to multiple TB with new storage-inspired memory tech - The Register](https://www.theregister.com/storage/2026/07/30/gpus-could-explode-to-multiple-tb-with-new-storage-inspired-memory-tech/5281363/) — 2026-07-30公開 - Sandisk プレスリリース(PDF)— リンク未確認
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