中国IT企業の35歳危機、年齢改ざんの実態
中国大手IT企業で働く従業員が、35歳でのリストラ危機を回避するため戸籍上の年齢修正に奔走する実態が浮き彫りになった。年齢を1歳減らすために官僚的手続きと格闘する姿から、中国テック業界の年齢差別の深刻さが明らかになった。
中国の大手IT企業で働く王亦舟(仮名)は、2026年7月に30歳の誕生日を迎えた。しかし彼には戸籍上の出生年が実際より1歳多いという事情がある。この「1歳の差」が、中国テック業界に蔓延する年齢差別、いわゆる「35歳危機」への恐怖と相まって、彼を出生証明書の再発行という困難な手続きへと駆り立てている。
年齢不安の実態
虎嗅網が伝えるところによれば、中国のインターネット大手企業では年齢が極めてセンシティブな要素となっている。「社員35歳で解雇」「高齢社員の自主退職勧奨」といった文言がSNSやメディアで繰り返され、業界全体に年齢に対する過敏な空気が漂っている。
従業員たちは自嘲気味に自身を「中登(中年登録者)」や「老登(高齢登録者)」と呼び合う。彼らは仕事と家庭で上昇期にある一方、老親の介護と子育てのプレッシャーに同時に直面している。
王亦舟は虎嗅網の取材に対し、「大手IT企業の解雇は能力や業績を考慮することは理解している。しかし実際には年齢も大きな要素を占めている」と語った。その懸念から、彼は本来の年齢に戻すべく行動を開始した。「せめてもう1年の猶予期間を自分に与えたい」というのがその理由だ。
変えられない戸籍
王亦舟は山東省潍坊市諸城の出身で、実際の生年は1996年だが、当時の特殊な事情により戸籍簿上の年齢が1歳多く記載されている。2021年に985大学を卒業後、上海の大手IT企業に入社し、数え切れないプロジェクトを経験してきた。
中国のテック業界において年齢不安が高まる背景には、若年化する企業平均年齢がある。2021年初頭に脉脉(maimai)が発表した「インターネット人材流動報告2020」によれば、全国19社のトップ企業の社員平均年齢は29.6歳。ByteDanceとPinduoduoに至っては平均27歳だった。人員削減の対象が「高齢」社員に偏る傾向も指摘されている。
このような環境下で、王亦舟は2025年11月から上海と諸城の実家を何度も往復し、正しい出生医療証明書の再発行を試みた。
官僚的手続きの壁
地元の母子保健院が要求する手続きは、想像以上に複雑だった。「山東省出生医療証明書管理弁法」に基づき、王亦舟は両親の身分証や戸籍簿など全ての戸籍資料を準備し、さらに数千元を自費で支払って司法親子鑑定まで完了させた。しかし、全ての資料が出揃った後、病院は新たな要求を突きつけた。「30年前の入院費領収書を提供しなければならない」というものだ。
これは明らかに不可能に近い要求である。一般家庭が30年もの間、入院費領収書を保管している可能性は極めて低い。王亦舟は12345市民サービスホットラインや保健衛生部門にも助けを求めたが、「管轄外」との返答が続き、問題は堂々巡りのままだ。
「医療機関カルテ管理規定(2013年版)」では、入院カルテは病院が退院日から少なくとも30年間保管する義務がある。この規定が最後の希望となり、王亦舟は母子保健院が当時の入院カルテに基づいて情報を確認してくれることを願っている。
業界の現実と年齢の壁
Zhihu(Zhihu)プラットフォームでは、アカウント「托尼学長」が「インターネット大手IT企業の40歳以上の社員はどこへ行ったのか」という投稿で話題を呼んだ。AlibabaやHuaweiなどの平均年齢は31歳、NetEaseやTencent、Meituanなどの企業は29歳に集中している。去った年齢超過の社員の多くは故郷に戻るか、無名の小企業に入社するか、少数ながら別の大手IT企業に転職したという。
ByteDanceを退職した黄星明(仮名)も年齢による壁を実感している。「年齢という壁は確かに存在する」と34歳になった彼は語る。2025年の退職後、本格的に転職活動を始めたが、環境は大きく変わっていた。一方でAIの影響で従来のIT開発や顧客サービスは削減またはBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)に転換され、他方で年齢が採用時のハードルとなっていた。ある企業の実行職では30歳以下の履歴書だけをデフォルトで見るケースもあるという。
5月下旬までオファーが得られなかった黄星明は、最終的にAlibabaのAIモデル評価BPOポジションに就任した。「若いうちにしっかりお金を貯めるべきで、勉強をやめてはいけない」と彼は率直に語る。
ただし、あるゲーム大手IT企業で長年人事を担当してきた李睿(仮名)は異なる見解を示す。「人員整理の対象になるかどうかは、主に業績次第だ」とし、年齢不安はある程度市場で誇張されている面があると指摘する。真の競争力を持つ「ベテラン」は依然として各社が争奪する対象であり、問題は「能力と年齢のミスマッチ」にあるという。
編集部の見解
中国テック業界の「35歳危機」は、日本にも無関係ではない。日本企業でも年齢とキャリアのミスマッチは存在するが、中国のように30歳を超えた時点で「高齢」と見なす風土は極端だ。この問題の本質は、成長市場が成熟期に入り、若年労働力の供給が過剰な環境下で生じる人材の使い捨て構造にある。短期的には、AIによる業務代替がさらに年齢の壁を高める可能性がある。中長期的には、このような年齢差別が持続可能な技術開発を阻害し、業界全体の経験知の喪失につながる危険性をはらむ。王亦舟の事例は、個人が制度と闘う姿として注目に値するが、根本的な解決には業界の意識改革と年齢に依存しない評価体系の構築が不可欠だろう。
参考
- 「 逃离35岁危机,一名大厂员工决定“改年龄” 」, by IT时报 — 虎嗅网, 2026-07-30T10:29:25.000Z (ARR)
- 元記事URL: https://www.huxiu.com/article/4879465.html?f=rss
よくある質問
- 中国IT業界の「35歳危機」とは何か
- 中国の大手IT企業では30歳を超えた従業員が「高齢」と見なされ、人員削減や昇進停止の対象になる傾向を指す。企業平均年齢は29〜30歳程度で、35歳を超えると転職市場でも極端に不利になるとされる。この現象は中国特有の若年労働力過剰と、急成長市場から成熟期への移行が背景にある。
- 年齢修正はなぜ難しいのか
- 中国の戸籍制度では出生医療証明書の再発行に厳格な手続きが求められる。親子鑑定や両親の身分証など多数の書類に加え、30年前の入院費領収書のような事実上不可能な要求が出されるケースもある。管轄のたらい回しも頻発し、本人にとって大きな時間的・金銭的負担となる。
- 日本のIT業界にも同様の問題はあるか
- 日本でも年齢による採用制限や早期退職勧奨は存在するが、中国のように30代前半でキャリアの限界を迎えるという極端な構造ではない。ただし日本企業でも年功序列の崩壊と成果主義の浸透により、中高年エンジニアのキャリア不安は増大している。中国の事例は、過度に若年化した人材市場のリスクを示す警鐘と言える。
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