自作圧縮器で学ぶDEFLATEとハフマン符号の仕組み
任意データの圧縮を基礎から学ぶ試み。DEFLATEの二大要素とハフマン符号の動作を自作実装で解き明かす連載を紹介する。
圧縮は計算機の世界で日常的に利用される機能でありながら、その内部動作が意識される機会は少ない。ファイルを圧縮すれば容量は数分の一になり、展開すれば1ビットの誤りもなく元に戻る。この仕組みを基礎から実装して理解しようとする試みが公開された。
Lobsters の ochagavia.nl by wofo の報道では、圧縮の原理を自作の実装で段階的に学ぶ連載が紹介されている。2026年9月2日公開の「Let’s build a compressor from scratch」と題された記事である。著者は圧縮を魔法のように扱うのではなく、情報の再表現として捉え直し、具体的な符号化の選択が容量に与える影響を例示している。
Compression is one of those wonderful things we have grown accustomed to in the computer world. You wave a magic wand and —poof!— a file suddenly shrinks to a fraction of its size!
同記事は、汎用圧縮の代表であるDEFLATEと、その構成要素であるハフマン符号に焦点を当てる。読者が自らの手で圧縮器を構築する過程を通じて、抽象的な理論を具体的なコードへ落とし込むことを目的としている。
圧縮の基礎 情報を少ないバイトで表す
圧縮の本質は、同じ情報をより少ないバイト数で書き直すことにある。記事では8個の真偽値の配列を例に、二つの保存形式を比較している。一つはJSONとして直列化する方法で、記述は次のようになる。
[true, false, false, true, false, true, true, false]
この形式は52バイトを要する。もう一つは真を1、偽を0としてビット列で表す方法で、10010110という8ビット、すなわち1バイトで表現できる。両者は同等の情報を保持しながら、容量には52倍の差が生じる。後者は前者をより効率的な表現へ変換したものとみなせる。
この関係は、特定のデータ形式に特化した圧縮器と伸張器の関係そのものである。JSON表現をバイナリ表現へ変換するプログラムが圧縮器、逆方向の変換が伸張器に相当する。特化型の圧縮は理解しやすいが、適用範囲が限定されるという制約を持つ。
この発想は、開発現場におけるデータ表現の選択にも通じる。例えばコンテナイメージの構築では、Dockerfileの記述方法やレイヤーの扱いが最終的なサイズと再現性に影響する。Cloud Native Buildpacks CNCF卒業、Dockerfile不要でコンテナビルドが示すように、ビルドの抽象化と再現性の確保は、表現形式をいかに効率化するかという圧縮の考え方と重なる部分がある。
汎用圧縮DEFLATEの二つの柱
特定形式に依存しない汎用圧縮は、任意のバイト列を対象とする。記事が例示するgzipの挙動は、その特性を端的に示す。622KBの書籍データは234KBに、90MBのRustプログラムのコンパイル済みバイナリは30MBに縮小される。一方で、すでに圧縮済みである54MBのMP3ファイルは、gzipを適用しても54MBのままである。圧縮済みデータがそれ以上縮まないことは、情報理論上の当然の帰結である。
gzipが採用するアルゴリズムはDEFLATEと呼ばれる。記事の説明によれば、DEFLATEは大きく二つの手法を組み合わせている。
第一は、繰り返されるバイト列の検出と置換である。過去に出現したバイト列が再び現れた場合、その位置と長さを示す参照マーカーに置き換える。マーカーの方が元の列より短ければ、差分が削減量となる。例えば「位置2397から15バイトを複製せよ」といった指示は、長い繰り返しを数バイトで表現できる。
第二は、各バイトの出現頻度に基づく符号長の変更である。頻出するバイトには短いビット列を、稀なバイトには長いビット列を割り当てることで、全体の平均符号長を短縮する。この手法がハフマン符号である。
この二つの柱は、重複の除去とエントロピー符号化という、汎用圧縮の基本構造を成す。前者がデータの冗長性を構造的に捉えるのに対し、後者は統計的な偏りを利用する。両者を組み合わせることで、テキストやバイナリといった多様な入力に対して安定した圧縮率が得られる。
データの複製や参照の扱いは、セキュリティの文脈でも重要になる。外部へのデータ複製や保持の在り方は、圧縮とは異なる領域でも議論されている。OpenAI Private Safety Processing発表 ゼロデータ保持を実現が取り上げたゼロデータ保持の設計は、データをいかに保持せずに処理するかという点で、情報の表現と保持に関するもう一つの視点を提供する。
ハフマン符号 出現頻度で長さを変える
DEFLATEの二要素のうち、記事が「魔法のように興味深い」と位置づけるのがハフマン符号である。連載ではこの符号化を実際に構築し、動作を観察できる「Huffman playground」が用意されている。
ハフマン符号の原理は明確である。入力全体における各バイトの出現回数を数え、出現回数に応じた二分木を構築する。頻度の高い記号は木の浅い位置に、低い記号は深い位置に設定される。結果として、頻出記号は1バイトより短いビット列で、稀少記号は1バイトより長いビット列で符号化される。全体の合計ビット数は、固定長である8ビット符号よりも小さくなる場合が多い。
重要なのは、この符号が可逆である点である。符号表があれば、ビット列を元のバイト列へ一意に復号できる。圧縮器と伸張器は同じ木を共有する必要があり、符号表自体も圧縮データの一部として格納される。符号表の記述に要する追加容量と、符号長短縮による削減量の差し引きが、正味の圧縮効果を決める。
記事の例である真偽値のビット列化も、極端なハフマン符号とみなせる。取りうる値が2種類しかない場合、それぞれに1ビットを割り当てることが最適となる。汎用的なハフマン符号は、この考え方を256種類のバイト値へ拡張したものである。
自作で学ぶ意味 実装が理解を深める
「一から作る」というアプローチは、既存ライブラリの利用では得られない理解をもたらす。圧縮器を自作する過程では、ビット単位の入出力、符号表の構築、参照マーカーの管理といった、通常は抽象化の背後に隠れる処理を直接扱う必要がある。
記事は、理論の説明に留まらず、読者が手を動かして検証できる構成を取る。JSONとビット列の対比から始め、DEFLATEの二段階へ進み、最後にハフマン符号を実装して確かめるという流れは、段階的な抽象度の上昇を示す。特定形式の圧縮から汎用圧縮へ、さらにその内部の符号化へと焦点を絞ることで、読者は各層の役割を分離して理解できる。
この学習方法は、既存の開発ツールやフレームワークを深く理解する際にも有効である。内部構造を自作して再現することで、性能や制約の理由が明確になる。圧縮率が入力データの性質に依存する理由、MP3が再圧縮できない理由、テキストとバイナリで圧縮率が異なる理由は、いずれも実装を追うことで自然に明らかになる。
開発現場への応用と今後の課題を考える
圧縮の知識は、日常的な開発業務にも直接関わる。ログの保存、オブジェクトストレージへの設定、ネットワーク転送、コンテナレジストリの容量管理など、バイト列を扱う場面では常に容量と速度のトレードオフが存在する。DEFLATEの二つの手法を理解していれば、どの種別のデータが圧縮に適し、どの種別が適さないかを事前に判断できる。
また、圧縮はセキュリティや法的手続きの文脈でも無関係ではない。データの複製や配布の経路を追跡する際、圧縮や符号化が介在すると同一性の検証が複雑になる。Take-Two、GTA VIリーカー特定へDiscordとMicrosoftに召喚のように、プラットフォームをまたがる情報の流通を追う事例では、データがどのような形式で保持・転送されたかが重要な手がかりとなる。圧縮の基礎を押さえることは、こうしたデジタルフォレンジックの前提知識としても意味を持つ。
連載はハフマン符号の実装を起点としつつ、今後DEFLATE全体の再構築へ進むことが示唆されている。参照マーカーの探索効率、符号表の最適化、ビットストリームの境界処理など、実装上の課題は多い。これらを一つずつ解決する過程が、圧縮という身近な技術の解像度を高めることになる。
編集部の見解
短期的には、自作圧縮器のような基礎実装を学ぶコンテンツが、開発者教育の素材として再評価されると見る。AIによるコード生成が普及する中で、ビット操作や符号化のような低レイヤーの理解は希薄化しがちである。DEFLATEとハフマン符号を自作で追う経験は、生成されたコードの正しさを検証する能力や、データ形式の設計判断を支える基礎体力になると評価できる。今後3〜6ヶ月で、社内勉強会や新人研修での活用が広がる可能性がある。 長期的には、データ量の増大と転送コストの上昇を背景に、圧縮の重要性は一層高まると見る。ログやテレメトリ、モデル学習用データセットなど、テキスト性の高いデータは今後も増加する。汎用圧縮の原理を理解したエンジニアが、保存形式や転送プロトコルの選択時に適切な符号化を選べるかどうかが、インフラコストと性能に直接影響する。1〜3年のスパンでは、圧縮を前提としたデータ設計が標準的なスキルとして求められるようになると考えられる。 編集部からの問いとして、読者に考えてほしい論点がある。
参考
- 「Let’s build a compressor from scratch」, by ochagavia.nl by wofo — Lobsters, 2026-09-02T19:54:21.000Z (ARR)
- 元記事URL: https://ochagavia.nl/blog/lets-build-a-compressor-from-scratch/
よくある質問
- DEFLATEとハフマン符号の関係はどのようなものか
- DEFLATEはgzipなどで使われる汎用圧縮アルゴリズムで、二つの手法を組み合わせている。一つが繰り返しバイト列を参照マーカーに置換する処理、もう一つがハフマン符号による符号長の最適化である。ハフマン符号は頻出バイトを短いビット列で表すことで全体の容量を削減する役割を担う。
- なぜMP3ファイルはgzipで圧縮しても小さくならないのか
- MP3はすでに音声データを圧縮した形式であり、冗長性や統計的偏りが取り除かれているためである。汎用圧縮はデータの冗長性を利用して容量を削減するが、すでに圧縮済みのデータには利用できる冗長性がほとんど残っていない。そのためgzipを適用しても容量はほぼ変化しない。
- 自作の圧縮器を学ぶことにどのような利点があるか
- ビット単位の入出力や符号表の構築、参照管理といった抽象化の背後にある処理を直接理解できる点が利点である。圧縮率がデータ種別によって異なる理由や、符号表の追加コストと削減効果の関係などを実装を通じて体感できる。結果として、保存形式や転送方式の選択時に適切な判断が可能になる。
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